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2025.03.28
第2回「健康をめざすアート公募展」最優秀賞受賞者・寺脇早也加さんインタビュー
財団法人「健康とアートを結ぶ会」代表理事・宮島永太良が、 第2回「健康をめざすアート公募展」最優秀賞受賞者・寺脇早也加さんにお話をお伺いしました。
寺脇早也加(てらわきさやか)さんプロフィール
1997年熊本県生まれ。高校から美術科のある学校へ通う。大学・院へ進学、より専門的に油彩を中心に学ぶ。日々感じた一瞬の感情を浮かばせた作品を制作。作品を観る時だけでも、刹那の思いや時間を思い出す契機になればと思います。
【受賞歴】
2020年 日本大学芸術学部長賞
2020年 日本大学優等賞
2020年 卒業制作作品「1997」生産工学部賞、買上
2022年 神山財団第8回卒業成果展 優秀賞、買上
2024年 第2回健康をめざすアート公募展 「夢から醒めて」で最優秀賞
【展示】
2019年 新制作展(以降 21’22’24年 入選)
2022年 個展「皮膚の下」/熊谷守一美術館4Fギャラリー
2022年 第4回octgone/あかね画廊(以降毎回)
【その他】
2019年 ギオン芸術スポーツ振興財団 奨学生
2020年 神山財団芸術支援プログラム 7期生 奨学生
2021年 守谷育英会 奨学生
- 宮島永太良(以後Q):
- 今日はよろしくお願いします。さて最初の質問です。寺脇さんが制作活動を始めたのはいつ頃からですか?
- 寺脇早也加さん(以後A):
- しっかりと画家への道を自覚したのは大学の3~4年生あたりで、油彩を始めたのは地元熊本で美術科のある高校へ入ってからです。作品発表は大学3年生の頃からグループ展に参加し始め、大学院の終わりに東京都豊島区千早にある熊谷守一美術館4Fギャラリーで初個展「皮膚の下」をさせていただきました。
- Q:
- 作品制作にはどんな色を好んで使いますか?
- A:
- どうしたら私の作品に人が親身になれるかと考えた結果、必要なのは暖かい色だと思い至り、茶とか黄とか暖色系を多く使うようにしました。そして、より印象的になるには何が必要かも考え、スカイブルー等も加えるようにしました。
- Q:
- 受賞が多いですね。
- A:
- 過去の受賞した作品は時間が掛かりました。例えば、2020年の「1997」は、大学の卒業制作で私の生まれ年をテーマにしました。と言うのも「五美大展」で国立新美術館の広いスペースに同世代の作品と一緒に展示される最後の機会と捉え、自分たちが歩んできた20数年間を季節の移り変わりと一緒に個人の成長を感じさせるモチーフや熊本地震等の事象のイメージを描き、同じ時間を生きて卒業する同世代へのはなむけとした作品にしたかったからです。

- Q:
- 大変な内容ですね。では、絵を描く時は事前に頭の中で構成をして描くのですか?
- A:
- そうです。繰り返しエスキースで構成をしてから描くので、キャンバスに入る前にかなり時間が掛かります。そのうえ大学院でより専門的に学んだので、色々な技法を使って描くため神山財団で優秀賞をいただいた作品には長い時間を要しました。
- Q:
- どう考えても構成レイアウトに時間が掛かり、PCが役立ちそうですね。
- A:
- 役立ちます。
- Q:
- PC上で構成したものをアナログで描くわけですね。それって1世紀以上前にも似た話があり、モネは睡蓮を描くのに当時の最新技術だった写真を使ったと言われています。一瞬の光を捉えるわけですから、写真は有効ですね。
- A:
- 光の捉え方が粒子的で緻密な作品を描いたフェルメールも同様に写真の原理(カメラオブスキュラ)を利用したのではないかと言われています。
- Q:
- 時代が変わっても画家の作品制作に対する姿勢は変わりませんね。加えて、これまでの寺脇さんのお話から、私は第2回健康をめざすアート公募展 最優秀賞受賞作品「夢から醒めて」も「1997」に通じている気がします。
- A:
- それは初めての指摘です。自分としては2作品を分けて考えていました。でも、「1997」は左から右、「夢から醒めて」は下から上の流れです構成してます。神山財団成果展の受賞作「もちよって」は一つ一つレイヤーでの工程を通して描いております。「夢から醒めて」は薄い絵の具をかけて制作したので、レイヤー(階層)的な構成が似ているのかも知れません。

- Q:
- ここで話題を当財団主催「健康をめざすアート公募展」へ移します。第1回も「ソトヘノヒカリ」を応募され佳作、第2回は「夢から醒めて」で最優秀賞を受賞されましたが、公募展はどちらで知りましたか?
- A:
- 2年前に大きな交通事故(顔面多発骨折)に遭い長期入院し、退院する2023年4~5月にかけてコンテスト公募のサイト「登竜門」で知りました。ちょうど、その頃の自分の心理状態に合っているなと思い応募を決めました。
- Q:
- どのような心理状態でしたか?
- A:
- 大変だった交通事故と、これをきっかけに毎年向き合っていこうと思って応募を決めました。正直言って私自身のためでした。ただ、1回目は自分に合っているなと思ったのですが、2回目は様々なことを考えギリギリまで応募を迷いました。
- Q:
- 応募に関しては様々な心理が働くのですね。それでは、第2回最優秀賞作品「夢から醒めて」の制作意図を教えてください。そして事故の影響もお話しいただければと思います。
- A:
- 2024年の2月、事故とは別件でショッキングなことがありました。事故に加えてそれが重なり絶望に近い状態でした。私は、昔からストレスがかかると眠ってしまうんですが、「夢から醒めて」に関しては、それでは自分は変われないと考え、現実をもっと受け入れて前に進むため、目覚めるための作品制作でした。事故の影響はかなり大きかったです。大学院在学中は先生からのアドバイスや評価を考えながら制作してきましたが、卒業後は何を基準に制作していけば良いのかと迷っていました。そんな時期に事故に遭ってしまったので心理的な影響は大きかったうえ、もう一つ悲しいことが重なり「これからも生きていけるのか」考えてしまうほどでした。そんな時、自分自身を振り返り自作品も含めて、私は色々な作品に支えているなと感じました。「人は裏切るかも知れないけれど、作品は裏切らない」と実感しました。事故が画家として生きる覚悟をくれたように感じます。
- Q:
- その時に心が開放されましたか?
- A:
- 2年連続「健康をめざすアート展」に応募した2作品は、自分を開放しながらも事故のことを考えながら描いていたとも言えます。

- Q:
- 「夢から醒めて」作品内の人物像はご自分ですか?
- A:
- はい、そうです。
- Q:
- 気持ちの上で第1回応募作品「ソトヘノヒカリ」とは違いましたか?
- A:
- 「ソトヘノヒカリ」を描いた時は、目のまわりも損傷したので目が本調子ではなく、ものが重なって見え、しっかりと見えていない状態で描きました。だから、タッチで描く抽象しかないかなと思っていました。
- Q:
- そうだったのですね。2024年の第2回表彰式の日、審査員のひとり日本近代美術思想史研究家/宮田徹也さんが、寺脇さんの作品について第1回より数段良くなったと言っていたのが、私にはとても印象的でした。
- A:
- それが聴けて嬉しいです(笑)。
- Q:
- さて、次に2025年秋にACTでの開催される受賞記念個展に対する意気込みをお聞かせください。
- A:
- 内容的には「生と死」を扱った展示にしたいなと思います。そして、できれば病気だったり、怪我だったり、日頃のストレスを抱えている方に作品を通して癒しを届けられれば嬉しいです。
- Q:
- 作品的には公募展のような感じですか?
- A:
- 「夢から醒めて」のイメージに加えて他で受賞した作品のエッセンスも入れながら、バランスを考えて構成、展示するつもりです。
- Q:
- 第2回の応募作品は寺脇さんも含めて、健康じゃない立場から健康を見つめ直す作品が多かったです。そうした心身万全ではない方々に向けての意味もあるのですね。
- A:
- はい、外見は健康に見えても心の中までは分かりません。そうした方々に私の作品を観ていただき、癒されたり、活力を取り戻してくれたら嬉しいです。
- Q:
- 少し戻りますが、事故の記憶は薄らいでいきますか?
- A:
- 薄らいで行きます。最近は体の方が先に薄らいでいるなと感じますし、記憶の方も徐々に…
- Q:
- 事故は忘れた方が一番なんですね。そのために芸術療法とかアートセラピーというのがあり、方法も絵だけじゃなくて音楽、演劇、書道とか色々あります。今日のお話を伺っていると、寺脇さんご自身が自然にそれをやっていたんじゃないかなと私は感じました。
- A:
- 確かに忘れた方が良いと思います。ただ、ユーチューブから流れてきた「人にはそれぞれ使命がある」と言う美輪明宏さんの言葉が今は心に残っています。以前の私は「使命ない派」でしたが、最近はもう「ある」と思っても良いかなと考え始めました。だから、事故もある意味運命で、それを受け入れ、今後の使命に活かして行けば良いのかもしれません。
- Q:
- う考えるようになったことこそアートセラピーと言えるんじゃないですか。 美輪さんが言ったことも含めて、起きたことは全て意味がある。寺脇さんの場合もそれで、今後どうなるか分からないけれど、そういう記憶と一緒にアートがあると考えたら、私も嬉しいです。
- A:
- はい、自分としてもアートセラピー系に進んで行けたらなと思っています。
- Q:
- 唐突ですが、最後の質問です。寺脇さんの趣味を教えてください。
- A:
- 作品制作時にラジオ感覚でゲーム実況を聴くことです。今のゲームって空想の世界だけじゃなくて、自分たちの気持ちを代弁しているゲームもあり、学べることがあるのでズット聴いています。
- Q:
- 意外、でもゲーム実況は面白そうですね(笑)。今日はありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。
- A:
- ありがとうございました。
取材日:2025年1月28日(火)
場所:銀座ミーツギャラリー
取材構成&撮影 :(有)世紀工房