一般財団法人 健康とアートを結ぶ会

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第3回「健康をめざすアート公募展」
イベント 2025.10.20

第3回「健康をめざすアート公募展」を開催しました。

10月15日(水)から19日(日)まで、当財団主催 第3回「健康をめざすアート公募展」の作品展示と審査が、東京都新宿区大京町のThe Artcomplex Center of Tokyoで開催されました。
また、最終日午後には、同会場で最優秀賞受賞者らの授賞式が行われました。

第3回「健康をめざすアート公募展」

第3回「健康をめざすアート公募展」

第3回「健康をめざすアート公募展」

開催日:2025年10月15日(水)~19日(日)
会 場:The Artcomplex Center of Tokyo
所在地:東京都新宿区大京町12-9

受賞者

最優秀賞


D-52 / バルビー二 ダヴィデ / 「ココロノクスリ」(2025年/アクリル)
今回のテーマ「健康」から私がイメージしたのは、溶けていく薬が体中に染み渡って体も心も元気になっていくというものです。あたかも、美しい音楽が心に染み入るように、美しい絵が心を震わせるように、病める心をも回復させるのです。
私の人生において、アートが魂の薬です。アートも薬のように病を治す力をもっています。最近では、AI で作られた画像や作品が多く、世の中に広まっています。「絵を描く」「創造する」という、当たり前の自然な表現が蔑ろにされるのは、とても残念で怖ろしくさえ感じられます。私はこの状況をとても危惧しています。
ですから、私はこの絵に、広がっていく液体を照らし出す光を描きました。私自身の憂いや懼れを美しい光が包み込み、気持ちが少しずつポジティブになり、温かく明るい気持ちに変化していく過程も表現しました。
私にとってアートは失意のときにも、人生を照らし出す力です。

優秀賞2位


A-11 / 安松美由紀 / 「しんとう」(2025年/実家の土・石・植物、骨)
「大切なペットを自分が殺した」という罪悪感を幼いころに抱えた。身近な人に言葉では伝えられなかった。物心のついたころから好きだった絵だけが、唯一その思いを預けられる時間だった。やがてペットを土葬した土地の土や石、植物など、失った存在の痕跡を含む素材を自ら集め、絵の具として使うようになる。ペット達は死んでしまったが、形を変えて世界に在り、
作品となって再び日々の中に息づく。この制作は、「許せない自分」を抱えたまま生きる手段だ。
本作は、絵を描き続けるきっかけとなった母うさぎと、このこを土葬した場所に生えてきた植物たちを描いた。埋めたこのこを養分にしてきた植物はいつも美しく、年々生息地を広げている。そんな植物を見るたび罪人に逃げ場はないと感じている。

優秀賞3位


B-17 / いだちえみ / 「NANIMOSHINAI」(2025年/水彩ペン)
この作品のテーマは「何もしない」です。
現代社会では常に行動し成果を出すことが求められ、立ち止まることや何もしない時間を持つことは怠惰や後ろめたさを感じさせる風潮さえあります。しかし、本当の意味で心も体も健康でいるためには、あえて「何もしない時間」を許し、自分を休めることが大切だと私は考えています。
もう一点出品しました[心のままに]という作品では「自分の心のままに生きること」をテーマにしました。この作品は、その心の声の中でも「今は何もしたくない」「したいことがない」という感覚をそのまま肯定するものです。社会の中で、自分が常に何かを生み出しているか、誰かの役に立っているか、自分の価値を高められているかを考え続けてしまう人は多いでしょう。ですが、そうしたことを考えずただ生きているだけでも良いのだと私は思います。心の声が再び湧き上がるまで、何もせずに過ごすことを自分に許す。それは決して怠けではなく、自分の心を守るために必要な時間なのです。
「何もしない」という行為は、一見すると無価値に思えるかもしれませんが、実は心身の回復や創造力の再生においてとても重要な役割を果たします。何もせず、ただ存在する時間があるからこそ、自分の中に眠っていた本当の気持ちや、次に向かうエネルギーが芽生えるのだと思います。私はこの作品を通じて、「休む」「止まる」ことの価値を、少しでも多くの人に感じてほしいと願っています。
作品には水彩ペンを使い、あえてシンプルな構成にしました。あまりにも情報があふれる世の中で、見る人が余計な思考から解放され、ただ視覚的に安らぎを感じられる絵にしたかったのです。鮮やかで複雑な構成ではなく、余白を多く残した絵だからこそ、ふと視界に入ったときに心を緩めるきっかけになればと思いました。充実して過ごしているときには、そのいそがしさに夢中でいてほしい。ですが、どうしても気分が沈むときや、うまくいかないと感じるときには、この作品を思い出し、「何もしない」という選択肢を自分に許してほしいのです。
この作品は、私自身が生きる中で何度も体感した思いから生まれました。無理をして走り続けることが習慣になっていた時期、心や体の声を無視し続けたことで、やがて何も手につかなくなった経験があります。そこから「立ち止まる」ことの価値を学び、意識的に休む時間をつくるようになりました。何もしない時間は、私にとって自分を取り戻すための大切なひとときです。
健康という言葉は「元気で動ける状態」と捉えられることが多いですが、私は「ただ安心してそこに存在できる状態」もまた健康の一部だと思います。社会が常にスピードを求める時代だからこそ、立ち止まり、何もしないことを選ぶ勇気が必要です。
「何もしないこと」は怠惰ではなく、むしろ自分を守るための行為です。この作品を通じて、誰もが安心して立ち止まり、ただ呼吸をしているだけの時間を肯定できるような気持ちを届けられたら幸いです。

佳作入選


A-7 / 米満泰彦 / 「虚空に咲く」(2025年/カンバスに油彩)
花には花言葉があり、作品にしたトルコキキョウは「優美」ということになるらしい。また、他にも「永遠の愛」「希望」「感謝」「すがすがしい美しさ」などあり、人生にポジテイブな花言葉を持つ。花言葉自体は17世紀のトルコ、オスマン帝国で始まり、手紙の言葉の代わりに花や果物などに意味を込めて贈った風習「セラム」による。
私の制作では花を題材にすることが多い。動物をはるかに超える生命力と生存のための戦略的な知恵を持ち、光を求めて伸長し空間を占領しようとする。人は植物に自然を感じ植物の懐で生きている。その植物に畏敬の念を感じています。
制作するにあたり、一つの花にどのようなメッセージを持たせるか。この花に私が込めたメッセージは、生命の強さ、可憐さ、花のダイナミズム、花心から吹き出し広がるエネルギーです。有限な命への思いが表現につながりました。
私の作品は光と影の絵画を目指しています。一条の光が闇に差して形が現れたように描きたいと思っています。そこに露わになった空間内の事象、闇に残る未分化のエネルギー。制作では形は作られ、生きもののように成長し、しばらく形をとどめるが、やがて崩れてしまうその一瞬前。

佳作入選


B-27/ vivi & vela / 「architecture of sleep」(2025年/アクリル・パステル・箱・パネル)
あなたにとって理想の睡眠とは何でしょうか?本作は、人間の自然な睡眠サイクルに着想を得ています。眠りはおよそ90分ごとに、最も浅い眠り(N1)から深い眠り(N3)、そして夢が最も活発なレム睡眠(REM)を繰り返します。本作は、各段階を科学的比率に基づき色彩で表し、最後に目覚めの「充電完了」までの過程を描いています。睡眠はエネルギーの回復だけでなく、心血管の健康、免疫機能、脳の老廃物除去、そして記憶の定着などの不可欠な役割を果たしています。しかし、日本の平均睡眠時間は7.4時間とOECD加盟27カ国中で最下位にあり、睡眠負債は社会課題とされています。本作を通じ、休息がもたらす循環と再生、そして心身のリズムと意識の繊細な関わりを感じて頂ければ幸いです。

佳作入選


D-45 / くまぱぱ / 「悲鳴=左手の懊悩」(2025年/アクリル絵の具・水性スプレーペイント・金箔・オイルパステル)
リウマチの件はもう一点の作品コンセプトに書いたのでそちらも読んでいただきたい。
何しろ痛みで手がうまく使えないというのは想像以上に大変なものだと、私自身が今回の制作で思い知らされた。だいたいリウマチの痛みは変動するのだ。痛みの度合いも変わるし、どういう動きで痛みがあるかも変わる。大抵は動かさなければ痛みはないのだが、動かさなくても痛いときは痛い。
この痛みを絵で表現しようと描き始めた作品だが、痛みの激しいときは描画を続けられないこともある。完全に作業を停止してしまうとモチベーションが維持できなくなりそうなので、痛みを堪えつつ少しだけ手を入れたり、どうしてもというときは左手を使ったこともあった。今のところ左手には症状が出ていないので左手を使っても問題はない。
いや、実は別の問題があった。それは私が右利きだったこと。若い人たちは知らないかも知れないが、私くらいの年代なら左利きの子どもは半ば強制的に右手を使うように矯正され、左右どちらも使えるようになっている人が結構多いのだ。しかし私は右利きだったので、左手を使うトレーニングなどは全く受ける機会はなかった・・残念ながら(笑
完成した作品にはそれほど左手で描いた部分が残っているわけではない。幸いにも右手の痛みが和らいだ期間もあり、そのときには右手が活躍したからだ。
声を出さず耐えた右手の痛みに対して、自由に動かない左手はそれを上回って声を上げたいほどの悩ましさだった。そこでタイトルを「悲鳴=左手の懊悩」とした。

佳作入選


D-51 / 渡邉麻衣子 / 「ビタミンの島」(2025年/油絵)
私は「人に元気や希望を与えるような」作品制作を心がけています。そのために、日々、アートスクールで技術を習得できるように努力し、美術館や芸術祭などで、いろんな作品を見て視野を広げるようにしています。また、東京ビエンナーレや美術館などで働き、情報を得るようにしています。
前から健康とアートを結びつけることに興味を持っており、臨床美術を単発で何度か受けたことがあり、そこで勉強したことを友達や家族にワークショップを開催し、喜ばれました。また、昨年の夏に白河芸術祭でだるま作品を展示したことをきっかけに訪問したのですが、講演会でホスピタルアートの話を聞き、患者さんだけでなく医療従事者の方々の緊張した心をほぐせないかと思いました。私にできることは何だろう?と思っていたところ、ネット検索で「健康とアートを結ぶ会」を見つけ、応募させていただきました。
今回の作品はビタミンをテーマにしました。私自身、疲れている時や徹夜でもう一踏ん張りしなければいけない時、柑橘系の果物やジュースを飲むとリフレッシュでき、パワーが出るからです。また、オレンジや黄色、緑などのビタミンカラーは見ていて、元気になるカラーなので、たくさん使用しました。そして、結果的には描いている本人も元気になれてしまうのが、今回の気づきでした。
技法面で点描にしたのは、春にスーラの絵を模写してみて、混色しない点描は色がきれいに見え、いろんな色を重ねることで深みがある。近くで見ても遠くから見ても楽しめる絵だと思いました。ひとつひとつの点が果物の粒や健康がテーマである細胞を表現するにも良いと思ったからです。
参考にした景色は、5月に瀬戸内国際芸術祭で小豆島にある、エンジェルロードです。引き潮と満ち潮になり始める光景を見て、とても神秘的だったのと、瀬戸内海の海は穏やかでずっと見ていられます。私の絵も見た人にそんな風に感じてもらえたらいいなと思い、要素を取り入れました。
オレンジを転がしている女の子は、ビタミンを転がしながら、私も皆に「元気」を与えていきたい!長生きしてほしい思いを込めて、オレンジ神社のモチーフを入れました。健康のテーマをリアルではなく、あえてファンタジーな世界にしたのは、現実を少し横に置き、見た人がふわ〜っと、心が軽くなる絵にしたかったからです。

(敬称略)

審査員の総評

伊丸岡美佳 [The Artcomplex Center of Tokyo 代表]

数あるアート作品のコンペティションをみても「健康」に着目したコンペティションは唯一無二となる公募展です。自身にとって健康とは何か?身体的健康、精神的健康、日常に潤いがあること、未来が輝いていること、健康である概念は人それぞれなので、その思想を表現することはアート的観点から見ても大変面白いアプローチとなります。
今年の出品作品は情熱のある作品のなかでも、技術力、表現力の高い作品が多く見受けられました。今回入選した作品はそれに加え、他の作品より作品コンセプト面で審査員が唸る視点で創作を進め、訴求力が高い作品が選ばれています。これにより鑑賞者が自身、そして身の回りの健康について改めて考えさせるよいキッカケとなることと感じています。
私は生きることは「表現し続けること」だと思います。自身の健康をめざしつつ、表現し続けることを皆さんに期待しています。

宮田徹也 [日本近代美術思想史研究]

今年は審査委員の評が、大幅に割れるほど多岐多様な作品が集った。それをネガティブに見れば、健康=病気の定義が曖昧に広がり、混乱をきたしていることを示している。ポジティブに考えれば、コロナ禍がある程度収まり、自由に発想できるようになったことが透けて見えているといえよう。
何れにせよ、我々は他者に遮られることなく、自己の裁量によって過去に責任を持ち、未来を切り拓かなければならない。それが生きることであり、生きることこそ制作することなのである。制作した作品を発表し、世と自己に問い、次の作品へ向かっていく。これこそが健康=病気の曖昧さを回避し、明確な自己を見出す手段になるのではないだろうか。
私達はこの悲惨な時代を、生き抜かなければならないのだ。絶望など、何時でもできる。希望を心に秘めるのは、今すぐにでも、主体的に行わなければならない。そのような決意は、身近な芸術の中に込められている。それを感じて、実践し、生きていこうではないか。

村岡ケンイチ [画家・似顔絵セラピスト]

今回で3回目の審査となりましたが、毎回本当にたくさんの発見があります。
「健康を目指すアート展」というテーマのもとに寄せられた作品を拝見しながら、
一人ひとりの中にある「生きる力」や「心のかすかな動き」に触れる時間になりました。

私は普段、病院で似顔絵セラピーの活動を通して、患者さんの人生を聴き、
その人の心にある答えを一緒に探すようなことをしています。
悩みの最中にいる方や、病と向き合う方にとって、
アートはそっと心の視点を変えるきっかけになる。
今回の作品にも、そんな“心の転換”を感じさせてくれるものがたくさんありました。

リアルな表現もあれば、デジタルや抽象で心の奥を描いたものもあり、
どれも「自分と向き合う」ことの誠実さが感じられました。
もしこの作品たちが病院の壁に飾られたら、
きっと見る人の考え方や感じ方に、
小さな変化と気づきをもたらしてくれるのではないでしょうか。

健康とは何か。生きるとは何か。
それを自分の体験や思いから丁寧に描き出した皆さんの姿に、
深く心を動かされました。
このような素晴らしい作品に出会えたこと、そして審査の機会をいただけたこと、
心より感謝いたします。

吉田理恵 [株式会社ハッピーリス代表・元 大事MANブラザースバンド]

心に響く作品、描くのが本当に好きと伝わる作品が多く、審査はかなり迷いました。皆さん、伝えたいコンセプトがあり、科学的に構築されている方もいらっしゃいますが、それぞれ、複雑な思いを抱えている方はそれが現れ、直球の方は直球が現れるという、素直な作品が多かったと思います。ミュージシャンではこのような場合、「君は音で嘘つかないね」と言ったりするものです。
以下、今回のいくつかの作品に対して私が書いたメモです。

孤独の中にも心温まる灯火がある。
気づいていない心の疲れを労わる。
命に感謝する。
静かな生命力。
明るい力が湧いてくる。
無意識への警鐘。
苦悩からの脱出。

私は子供の頃から風景や絵を見て曲を作ることが多かったので、描いた本人の意図を発展させる癖があり、こんなメモです。入選されなくとも個人的に好きな作品もありました。皆様、どうぞこれからも心の声のまま、描き続けてください。

細井孝之 [健康院クリニック院長]

今回も多くの素晴らしい作品を拝見することができました。作者のメッセージも作品の厚みを増すものばかりで、順位をつけるのは前回よりも難しくなりました。そこで思いきって、
病院やクリニックに飾った場合、どこにどのように掲示すると来院者の皆さんに喜んでいただけるか、という視点で審査させていただきました。入口の正面、待合室、検査室、病室の廊下の突き当り、などなど、想像が広がりました。

宮島永太良 [一般財団法人 健康とアートを結ぶ会 代表理事]

今年で3回目となる「健康をめざすアート公募展」。
いつもそうなのだが、今年は例年以上に、会場を見た途端、「また悩んでしまう」という、審査員としては、やりがいのある不安がまず頭をよぎった。
しかし何度も出展作を見ているうちに、各作家さんがどれだけ深い思い、願い、信念を持って制作してきたかが、手に取るようにわかってきた。
「健康」というのは大変幅広く、かつ抽象的な概念である。この公募を始めた時は、果たして「健康の視覚化」はできるものだろうかという不安すらあった。しかし、こうして皆さんから集まった作品と接すれば、そこには必死に生きようとする人々の姿を想像せずにいられない。思わぬ視覚が作品を超えて飛び込んで来るのである。
それらはいずれも、幸せを追求した賜物であることも、3年の歳月が教えてくれた。

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